大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(く)141号 決定 1984年7月18日

少年 K・T(昭四三・四・二九生)

主文

原決定を取り消す。

本件を横浜家庭裁判所小田原支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであり、要するに、原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで、所論にかんがみ、関係記録を調査検討し、当審における事実取調の結果をも合わせて判断すると、本件の非行事実は、原判示のとおり、昭和五八年三月二六日から同五九年四月九日までの間前後一七回にわたる、単独あるいは共謀による窃盗事犯であつて、被害総額も多額にのぼるものであるところ、これら非行が長期間、多数回にわたつて行われていること、そのうちの五件は少年の単独犯行によるものであることなどの点にかんがみると、少年の非行性は軽視することができないといわなければならず、これに、鑑別結果通知書、少年調査票等に徴し窺われる少年の性格傾向、家庭環境、保護者の保護能力等を合わせ考えると、原審が、社会内処遇によつて少年の再非行を抑止することは困難であり、少年の健全な育成を期するためには少年を施設に収容して矯正教育を施す必要があるとの判断のもとに、少年を中等少年院に送致した措置もあながち不当であるとはいい難い。

しかしながら、更に検討すると、少年にはこれまで保護処分歴は全くなく、今回初めて鑑別所、少年院と厳しい生活体験を経て従来の生活態度を反省し、更生への決意を固めているものと思われること、少年を共犯として本件各非行に走らせ、あるいはその更生の妨げともなつていた実兄のA、同Bの両名とも本件非行により少年院に収容され、家庭の環境も一段と改められたこと、少年の母親も少年を手許に引き取り新たな環境のもとで、その指導に力を尽すべく決意を新たにしていること、その他検察官において本件についての少年に対する処遇としては保護観察処分が相当である旨の意見を付していることなどの諸事情を斟酌すれば、少年に対しては保護観察などの社会内処遇によつてその更生を期待することも十分に可能であると認められ、結局原審の処分は著しく不当であることに帰すると認められる。

よつて、本件抗告は理由があるので、少年法三三条二項により原決定を取り消し、本件を横浜家庭裁判所小田原支部に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 市川郁雄 裁判官 高木貞一 小田部米彦)

〔参照〕原審(横浜家小田原支 昭五九(少)九三三、九四四号 昭五九・五・三一決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

(1)につき司法警察員作成の昭和五九年五月二日付少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるから、これをここに引用<省略>する。

(2)につき別紙のとおり

(適用法令)

(1)、(2)につき各刑法二三五条、同法六〇条

(保護事由)

当裁判所の審判の席における少年並びに保護者の各陳述及び家庭裁判所調査官作成の少年に関する少年調査記録(少年鑑別所作成の鑑別結果通知書等同記録に編綴されている関係書類一切を含む。)によつて明らかな本件非行の動機、態様、少年の行動歴、保護者の保護能力の程度、家庭環境及び少年の資質等諸般の事情を総合して考慮すると、社会内処遇によつて少年の再非行を抑止することは困難であり、少年の健全な育成を期するためには、この際少年を中等少年院に収容して、規律正しい生活のもとに矯正教育を施し、社会生活の基本的問題についての指導を行い、その生活態度の改善を図る必要があるものと認められる。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条に則り、主文のとおり決定する。

別紙

非行事実

少年はB、A、ならびにIと共謀のうえ、昭和五九年三月一三日午前一時頃神奈川県愛甲郡○○町○○×××番地空地においてK一九歳所有にかかる軽乗用自動車一台時価一〇万円相当を窃取したのをはじめとして別紙非行事実一覧表<省略>記載のとおり単独または共犯とともに前後一六回にわたり現金二万五〇〇円位、自動車三台、原動機付自転車五台、ナンバープレート二枚、煙草一三箱他食品類五五点、その他一点を窃取したものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例